特集「DXからSX・GXへ」

計測展2022 OSAKAで注目
SX・GXにつながる先進技術に出会う

いまや多くの企業が推進し、事業や働き方の効率化や企業変革に取り組む「DX」。さらにサステナブルな企業価値の向上を目指す「SX」や「GX」の視点を取り入れる企業も出てきています。計測・制御が支える「製造DX」でも企業経営や事業戦略、製品づくりにSX・GXの視点は欠かせません。

連載コラム「DXからSX・GXへ」では、今回の計測展で展示されるものの中から、カーボンニュートラルの実現に寄与し、新しい価値を生み出し、今後のビジネス拡大が期待される技術や製品を日経BPでセレクト、連載形式で紹介していきます。

「もっと製品のことを詳しく知りたい」「技術者、企画担当から話を聞きたい」という方は、ぜひ計測展会場にお越しください。

SX(サステナビリティトランスフォーメーション)=企業が『持続可能性』を重視し、企業の稼ぐ力(競争優位性)とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図り、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革する取り組み。

GX(グリーントランスフォーメーション)=政府が掲げるカーボンニュートラルの実現に向けて社会システムそのものを変革する取り組み。

Key Product & Key Person 第3回

【XMAT】 川村インターナショナル

AI活用で使えば使うほどカスタマイズできる機械翻訳

技術翻訳サービスを得意とする川村インターナショナル。機械翻訳エンジンを使った自動翻訳の分野でも独自技術「XMAT」をリリースし、存在感を見せる。計測・制御業界でも活用が増え、海外EC、マニュアル作成、人材教育など、技術×翻訳で取引企業との共創を進める。陣頭指揮を執る森口功造さんに今後の展開を聞いた。

――新サービスはXMAT(トランスマット)と読むのですね。

はい、Xはトランスと読みます。我々が翻訳業界なのでトランスレート(翻訳)と変革を意味するトランスフォーメーションをかけています。

――どんな製品なのですか。

機械翻訳では、まだまだ翻訳を間違えることもありますが、そうしたエラーを人間が効率よく見つけられるように支援機能を実装した新しい機械翻訳サービスです。機械翻訳エンジンを選べるほか、機械学習を行って自社や個人向けにカスタマイズしたり、用語集を設定したりできます。機械学習するときに必要なデータセットもAIを活用して自動で構築できるのは、日本ではXMATだけです(特許取得済み)。

――翻訳操作は難しいですか。

XMATのサイトを立ち上げると、Quick MT、Quick PE、LACなどのメニューが出てきます。Quick MT で分野に合った機械翻訳エンジンを選び、翻訳したい原文ファイル(txt、PDF、JPGなど10以上の書式に対応)をアップロードすると翻訳結果が得られます。あとはQuick PEを使って修正編集や自動検証を行うだけです。機械翻訳エンジンのカスタマイズにはLACを使い、業務に使っている文書やインターネット上の公開情報などをアップロードすると、自動的に教師データとして使える形式に変換されます。それを機械学習させて自分だけの翻訳エンジンができるという仕組みです。

――どんなユーザー層を想定していますか。

もともと当社では、マニュアルを作ったり、情報を発信したりしている専門部署から発注を受けることが多いのですが、ここ数年、機械翻訳のサービスを手掛けるようになってからは、営業やマーケティング、技術、法務、人事と、部門にかかわらず利用者層が広がりました。

ただその人たちは、翻訳、機械翻訳に慣れていない人が多い。機械翻訳には間違いもありますから、それをどうやって使いこなしてもらうかが重要です。そこで発想を変え、翻訳に慣れていない層にフォーカスし、多言語化のときにどんなところで困っているか、効率的に作業するにはどうすればいいのか、など課題を解決していきました。

Quick MTの画面で機械翻訳。翻訳エンジンを選んでいるところ

――競合の多い機械翻訳ですが、XMATの強みはどこにありますか。

自分の業務内容に合わせて翻訳エンジンを選んだり、カスタマイズできたりするのが強みです。IT業界だとグーグル翻訳がよかったり、DeepLなら方言も訳してもらえるので地域ものに強かったり、翻訳エンジンにもそれぞれ特性があります。XMATで最も利用の多いのがみんなの自動翻訳@KIです。日本語から中国語に翻訳するとき、英語を介さないので翻訳精度が上がります。

――業種や職種に合わせてカスタマイズできるといいですね。

それを実現するのが、機械学習とAIの活用です。よりカスタマイズされた精度の高い翻訳作業を行うためには、機械学習に使うデータ基盤が重要です。ところが、多くの方はAIに学習させる十分な教師データを持っていません。そこでデータを集める、データを加工する、データを検証することを自動化するソリューションを用意しました。例えば、これまで業務で使われた英語に対する日本語の正解訳を大量にAIに学習させることで自社あるいは自分だけの翻訳エンジンを持てるようにしました。また最近リリースしたCorpusNowを使うと、インターネット上にある公開データを取り込んで、機械学習用のデータとして使えるようにしました。

――AIや機械学習というと、費用がかかりそうですね。

XMATの基本料金は個人利用で月5500円からで、年払いなら5万円から。機械学習の機能まで入れたプランだと、月9900円から、年支払いなら9万9000円から利用できます。多くのプロセスを自動化してコストダウンしています。

――今後のこの技術の可能性は?

「翻訳を必要とするすべての人に機械翻訳を」をミッションに開発したサービスで、大企業だけではなく個人でも利用することができるのが画期的なポイントです。高額な費用を支払わないと実現できなかったことを、個人でも月額定額料金で利用することができます。個人が使えるようになったことで、フリーランスの翻訳者や、小規模の事業者でも自分だけの機械翻訳エンジンを作ることができるようになり、劇的に生産性を向上させることができます。このことは、翻訳会社や企業内翻訳部門が中核を担っているサプライチェーン構造を個人のレベルからひっくり返してしまうような変革をもたらすことができると信じています。

――計測・制御企業が海外に出るときなどグローバルな課題の解決に御社の翻訳サービスは重要なツールになりそうですね。

むしろ当社の既存のビジネスはそちらのほうです。マニュアルの多言語化のほかにも、動画マニュアルやeラーニング、計測・制御企業向けなら操作画面のUI(ユーザーインターフェイス)の翻訳なども手掛けています。例えば、音声データを自動で機械翻訳してテキストにしたり、字幕にして流したりできます。逆にテキストを翻訳して、音声合成して多言語で語りを入れることもできます。翻訳にほかの技術を組み合わせるといろいろなことができることを、伝えることができていないのが課題です。

――計測展ではどんなところに期待していますか。

「何ができるの?」と言って、ブースに気軽に立ち寄っていただきたい。展示会は製品・サービスについて説明ができるのが一番大きな利点です。計測・制御という専門性の高い分野で、しかもデータを社内外に大量に持っているところが多いので、翻訳×技術で何か新しいことを共創できるのではないかと期待しています。

――計測展の主力テーマの一つである大阪・関西万博も未来社会の共創、新しいアイデアを創造、発信する場所というのがテーマです。翻訳と技術でさまざまな共創が生まれそうですね。

言葉というのは国よってさまざまです。言葉やコミュニケーションの課題を解決するには翻訳会社だけでも、日本人だけでもできません。国内外のいろんなセグメントの人がかかわり、AIや機械学習などを活用しながら壁を乗り越えていかなければなりません。そのとき、会社と会社、会社と人、人とAIなど、共創は大きなテーマですね。(構成/石井 和也)

「コラボレーションするのは人間の才能だと思うんです」

Key Person

森口 功造 Moriguchi Kouzo

株式会社 川村インターナショナル 代表取締役

2003年に入社後、ソフトウェアのローカリゼーション部門の立ち上げや品質管理部門の統括を経て、現在は国際標準規格の策定(ISO)やコトバとデータをつなぐLanguage DXソリューションの開発に携わる。日本翻訳連盟(JTF)専務理事のほか、アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)理事も兼務する。「世界には翻訳の対象になるものは多く、プロの翻訳者によって翻訳されているのは、そのうち数パーセントくらい。人が得意なところ、AIが得意なところを使い分ければもっとすごいことができそう」と話す。

会場に行けばキーマンに会える!

もっと詳しく製品のことを知りたいという方へ
10月28日14~16時に森口さんが川村インターナショナルの展示ブース(小間No.6)にいます(不在や商談中の場合はご了承ください)。新しい事業開発や共創のチャンス。ご希望の方は、ブースでお声がけください。(不在や商談中の場合はご了承ください)